東京地方裁判所 平成10年(ワ)25701号 判決 2000年9月27日
原告
株式会社イケハタ
右代表者代表取締役
池端圭
右訴訟代理人弁護士
長濱毅
同
古田啓昌
同
城山康文
被告
株式会社奥村組
右代表者代表取締役
奥村正太郎
右訴訟代理人弁護士
佐藤貴則
補助参加人
ヒロセ株式会社
右代表者代表取締役
廣瀬太一
右訴訟代理人弁護士
津田禎三
同
津田尚廣
同
藤井薫
同
下浦弘章
同
安若多加志
右補佐人弁理士
山口朔生
同
河西祐一
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 被告は、別紙工法目録記載の工法を使用してはならない。
二 被告は、別紙工法目録記載の工法を使用して造成された連続壁体を使用してはならない。
三 被告は、原告に対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一一月一七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、別紙工法目録記載の工法(以下「被告工法」という。)を使用している被告の行為が原告の有する特許権を侵害するとして、原告が、被告に対して、被告工法の使用の差止め等及び損害賠償を求めた事案である。
一 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨により認められる事実)
1 原告の有する特許権
原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有している。
(一) 発明の名称 連続壁体の造成工法
(二) 出願日 平成一年三月三〇日
(三) 登録日 平成六年九月二六日
(四) 登録番号 第一八七五二八九号
(五) 特許請求の範囲 別紙「特許公報」写しの該当欄記載のとおり(以下、右公報掲載の明細書を「本件明細書」という。)
2 本件発明の構成要件
本件発明を構成要件に分説すると、次のとおりである。
A 先端付近より硬化液を吐出しながら回転するオーガを回転域が一部重複するように複数機並列し、かつその並列を回動可能にした削孔機を用い、
B 削孔機による硬化液の吐出と回転とで連通した複数本からなる立坑を地盤に削孔すると同時に削孔土砂と硬化液とを撹拌混合してこれら混合物からなる壁体造成材料を立坑内に打設し、
C この壁体造成材料の打設後に削孔機による硬化液の吐出と回転とを維持して壁体造成材料を撹拌混合しながら削孔機を立坑から引き上げ、
D 壁体造成材料が硬化する前にこの立坑に一部重複しかつ削孔機の回転により0度を含む所定の角度を介在させてさらに次の立坑を削孔すると同時に壁体造成材料を打設し、壁体造成材料が打設された立坑を連続させて
E その壁体造成材料を硬化させることを特徴とする
F 連続壁体の造成工法。
3 被告の行為
被告は、平成一〇年八月末より、埼玉県大宮市宮町<番地略>において、山口商会を注文主とするYビル新築工事(以下「本件工事」という。)を施工した。被告は、同工事の基礎工事を補助参加人に発注し、補助参加人は、右基礎工事の施工に当たり、被告工法を実施した。
(なお、被告工法を使用して造成した連続壁体を使用する行為が、特許法二条三項三号にいう発明の実施に当たる(原告の主張)か、当たらない(被告の主張)か、については争いがある。)
4被告工法の構成及び構成要件の充足性
(一) 被告工法の構成は、別紙工法目録の「二 造成手順」記載のとおりである。
(二) 被告工法は、本件発明の構成要件A、B、C、E及びFを充足する。
二 主要な争点
1 構成要件Dの充足性
(原告の主張)
被告工法は、以下のとおり、本件発明の構成要件Dを充足する。
本件発明の構成要件Dのうち「削孔機の回転により」「0度を含む所定の角度を介在させてさらに次の立坑を削孔する」との部分は、削孔機に複数配置されている各オーガをそれぞれ回転させることによって次の立坑を削孔すること、及び最初の立坑と次の立坑との間には0度を含む所定の角度を介在させることを意味するものと解すべきである。
その理由は以下のとおりである。本件明細書において、「回転」と「回動」とは使い分けがされており、「回転」という語を用いる場合は、回転の対象は各オーガを意味していること、したがって「削孔機の回転により」という語句は、「削孔機に配置された各オーガの各回転により」と読むべきであり、右部分を受ける語は、動詞「削孔する」であると理解すべきことになる。
したがって、本件発明の構成要件Dの「0度を含む所定の角度を介在させ」るという要件において、角度を介在させるためにいかなる手段を採用するかは、何ら限定されていないことになる。
被告は、①本件明細書の「発明の詳細な説明」欄の[実施例]第5欄20行〜29行に、「オーガの並列の回動により、0度を含む所定の角度を介在させて次の立坑を削孔する」旨の記載がされていること、②訴外成幸工業株式会社(以下「成幸工業」という。)らを請求人とする本件特許に係る無効審判請求事件において、原告(被請求人)が「本件発明は、ベースマシンの旋回と回転式リーダーの組み合わせが施工における不可欠な条件となっている公知技術とは異なり、オーガの並列の回動により0度を含む所定の角度を介在させることだけで達成できる」旨意見を述べていることを根拠として、構成要件Dは、「オーガの並列の回動」のみにより、「0度を含む所定の角度を介在させる」工法に限定されていると主張する。しかし、本件明細書添付の図面(第4図)の工法では、「ベースマシンの旋回と回転式リーダーの組み合わせ」が示されていることから、右のように限定する理由はない。
一方、被告工法の構成(二)cは、ベースマシンの旋回(削孔機の回転)と回転式リーダーの回転(オーガの並列の回動)の組み合わせによって「0度を含む所定の角度を介在させ」ているので、構成要件Dを充足する。
(被告の反論)
被告工法は、以下のとおり、本件発明の構成要件Dを充足しない。
本件発明の構成要件Dにおける、「0度を含む所定の角度を介在」させる方法は、複数の「オーガの並列の回動」(複数並列に配置されたオーガの列を回転させること)を手段とするものに限定すべきである。
すなわち、①本件明細書の発明の詳細な説明欄の[実施例]5欄20行〜29行には、「オーガ41、42、43の並列が回動可能であることを利用して、先の立坑6に対して次の立坑6を所定角度介在させるようにする。この角度は、第4図に示すように、施行ラインLが直線の場合には0度となり直角の場合には90度となる。なお、施行ラインLに沿った立坑6の施行移動に対しては、削孔機4の基部(本体ベースマシン等)44からのオーガ支持部(クレーン等)45の伸縮で対応することができる。」と記載され、複数基のオーガの並列の回動により、0度を含む所定の角度を介在させることができることが明らかにされていること、また、②原告は、成幸工業らを請求人とする本件特許についての無効審判請求事件において、原告自ら、オーガの並列の回動だけで0度を含む所定の角度を介在させることができる点に本件発明の新規性ないし進歩性がある旨主張していること等の事実に照らすと、構成要件Dは、複数機のオーガの並列の回動を手段として「0度を含む所定の角度を介在」させるもののみに限定されると解すべきである。
構成要件Dに関する原告の解釈はあまりに不自然であって採用できない。すなわち、本件明細書の「特許請求の範囲」欄には、「削孔機」に関して「先端付近より硬化液を吐出しながら回転するオーガを回転域が一部重複するように複数機並列し、かつその並列を回動可能にした削孔機」と記載されているのであるから、「削孔機の回転により」の語句を「削孔機の各オーガの回転により」と解釈することは、右「削孔機」に関する記載と矛盾することになる。原告は、本件明細書で、「回転」と「回動」が使い分けられていることを根拠にするが、出願の過程で両者は使い分けられていない。
一方、被告工法(二)cは、「0度を含む所定の角度の介在」をベースマシンの旋回(削孔機の回転)と回転式リーダーの回転(オーガの並列の回動)との組み合わせによって実現する方法を採用しているので、本件発明の構成要件Dを充足しない。
2 権利の濫用(明白な無効理由)
(被告の主張)
本件特許には、明らかな無効理由が存在する。
丙一(昭和六二年版「SMW積載資料」)に、いわゆるSMW工法の工程及び装置が記載されている。丙一に記載されたSMW工法では、まず、上部(ベースマシン)本体の回転とオーガの並列の回動の組み合わせにより「0度を含む所定の角度を介在させて」削孔する工法が記載されている。また、セメント系懸濁液を注入しながら所定の深度まで原位置土を削孔混練し、所定の深度に到達後、上下に反復の混練を行い(ターニング)、続いて、セメント系懸濁液吐出を続行し、混練軸を徐々に引き上げ混練を完了することが明白に示されている(この引き抜き撹拌におけるオーガの引き上げ時にオーガの回転を維持することは当然の前提とされている。)。
また、丙七、丙三八の二(「基礎工四月号」一九八一年四月、「高知市神田ポンプ場造成工事に伴う大深度ソイルセメント連続壁工法」三六頁〜四三頁)には、昭和五五年当時実施されていたSMW工法が記載されている。右SMW工法では、丙三八の三に記載されたのと同機種の削孔機が用いられていると推認されるが、右削孔機では、ベースマシンの旋回とは別に、オーガの並列がリーダーの回転により相対的に回動し、これにより、0度を含む所定の角度を介在させた削孔を掘削することが示されている。次に、SMW工法の削孔工程には、削孔撹拌、底部撹拌、引抜き撹拌があって、そのうち、引抜き撹拌は、オーガの先端より硬化液を吐出しつつ回転させることによって壁体造成材料(土砂と硬化液)を撹拌混合しながら、オーガを立坑から引き上げるという工程がある。丙七には、混合撹拌の際、「回転」するという直接的な記載はないが、撹拌は「回転」によってのみ行われる動作であり、当然回転により撹拌する工程を含むといえるし、このことを窺わせる記載がある。
さらに、丙三八の九(昭和五八年一月三一日発行の「柱列式地下連続壁工法」)では、ベースマシンの旋回とは別に、オーガの並列がリーダーの回転によって相対的に回動すること、オーガ引き上げ時に、オーガの回転とセメントミルクの吐出を維持しながら引抜き撹拌することが技術開示されている。
右各文献に示されたSMW工法が本件出願前から公然と実施されていたことは、雑誌「基礎工」昭和五六年四月号(丙七)から明らかである。また、補助参加人自身が、多数施工してきた工事の中には、官庁の発注する建設工事もあり、そのような工事では、入札が公開され、入札に先立ち、発注者から図面が示され、現場説明会が開かれ、現場説明会には入札希望者であれば誰でも参加できるし、図面も受領することができることになっている。さらに、工事が開始されると、現場には、多数の専門業者、資材業者、設計事務所、コンサルタント、短期の季節労働者、運転手が出入りする。補助参加人のSMW工法が公然と実施されてきたことは明白である。
以上のとおり、本件発明と同一のSMW工法は、本件出願日である平成元年三月三〇日以前から公然と実施されていた。
したがって、本件発明は、右各証拠に記載されたものと同一、又はこれにに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法二九条一項一号、二号、二項の無効事由を有することが明らかである(なお、成幸工業らを請求人とする本件特許権に対する無効審判請求事件(平成一一年審判第三五〇二八号)について、本件特許が無効であるとの審決がされている。)。
このように、本件特許には無効理由が存在することが明らかであるから、そのような特許権に基づく原告の権利行使は権利濫用に当たり許されない。
(原告の反論)
丙一(昭和六二年版「SMW積載資料」)には、一番目の掘削孔と二番目の掘削孔との間に所定の角度を介在させることは何ら記載されていない。さらに、オーガ引き上げの際に、オーガの回転を維持することはなんら記載されていない。丙一での引き上げの際の撹拌混練は、回転により行われるものではなく、オーガの上下動によって行われるものであり、このことは成幸工業の有する特許権(以下「成幸特許」という。)の明細書の記載からも明らかである。
丙七(雑誌「基礎工」昭和五六年四月号)にも、本件発明と同一の内容が記載されているとはいえない。「オーガの並列の回動」に関しては、本件発明では、オーガの並列が上部本体と一体となって旋回することにより回動することを意味するのではなく、オーガの並列自体が回転運動することで、上部本体との相対的角度を任意に変更しうることを意味する。これに対し、丙七の削孔機には、そのような意味でのオーガの並列の回動に関する記載はない。また、引抜き撹拌はオーガの上下動による撹拌を意味するに過ぎず、回転を維持しながら撹拌を行うことについては何ら記載はない。
補助参加人が本件出願前に実施していたとする成幸特許に係る実施方法と本件発明とは、以下の二点において異なる。すなわち、成幸特許の工法では、①ベースマシンの旋回のほかに、リーダーの回転によるオーガの並列の回動はできず、これによって、0度を含む所定の角度を介在させていない、②オーガ引き上げ時の引き抜き撹拌において、オーガの回転の維持によって撹拌混合がされていない。これに対し、本件発明では、①ベースマシンの旋回のほかに、リーダーの回転によるオーガの並列の回動によって、0度を含む所定の角度を介在させている、②オーガ引き上げ時の引き抜き撹拌において、オーガの回転の維持によって撹拌混合がされている。
丙一は、特定の団体の内部資料であり、公知文献ではない。また、工事現場において工事に携わる関係者は、すべて施主又は雇い主に対して明示又は黙示の秘密保持義務を負っている上、本件のような工事の大部分は地中において行われるから、通行人らが一見して理解し得るものとはいえず、その意味で、本件工事の実施は公然実施とはいえない。
したがって、本件発明は、右各証拠に記載されたものと同一、又はこれにに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 先使用による通常実施権
(被告の主張)
仮に、被告工法が本件発明の技術的範囲に含まれるとした場合には、先使用が成立する。
補助参加人は、別紙一覧表記載の各工事において、本件出願前の昭和五八年一一月から昭和六三年一二月までの間、被告工法と同一のSMW工法を実施していた。補助参加人は、本件出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をした者から知得して、特許出願の際に現に日本国内においてその発明の実施である事業を行っていた者ということができる。SMW工法は、本件発明と同一である。
したがって、補助参加人は、その実施している発明及び事業の範囲内において、本件特許権について通常実施権を有する。また、補助参加人が本件特許権を無償で実施することができる以上、補助参加人の元請けである被告の行為が特許権侵害を構成することはあり得ない。
(一) 補助参加人は、本件出願前の昭和六三年一〇月ころ、「(仮称)釧路フィッシャーマンズワーフ新築工事」において、SMW工法を実施した(丙三六)。丙三六には、一次掘削孔への壁体造成材料を打設後(削孔撹拌)、底部二ないし三メートルの範囲を上下させて撹拌(底部撹拌)した後、削孔撹拌と底部撹拌の際正転していたオーガを逆回転させながら、オーガ先端からのセメントミルク液の吐出を続行し、オーガ錘を徐々に引き上げ削孔混練(引抜き撹拌)する工程が示されている。原告は、丙三六には、「オーガは上下とエアーにより撹拌する」との記載があることから、オーガ引き上げ時にオーガの回転は維持されていないと主張するが、「オーガの上下」は「オーガの回転」を排斥せず、むしろオーガは回転を主たる作用としていることや、オーガの混練軸の構造に照らし、オーガの上下動に際し、回転が維持されることは当然であるから、原告の右主張は失当である。オーガを回転させることなく、その上下動のみによって撹拌作業を行うことは、土の圧力が大きい地中では不可能である。
(二) 補助参加人は、昭和六二年八月に施工された「(仮称)日経茅場町別館新築工事」(丙一四)、昭和六三年一〇月に施工された「和泉、和泉大津幹線1下水管梁築造工事第7工区」の工事(丙一八)及び昭和六一年九月に施工された「函館駅前南地区第一種市街地再開発事業施設構築物新築工事」(丙三四の二)において、SMW工法を実施した。その際、引抜き撹拌の際、オーガの回転を逆転し、その回転を維持しながら、撹拌し引き抜いて施工したことが明確に示されている。
そして、丙一四の工事の際に使用された掘削機は、その構造上リーダーの回転によりオーガの並列が回動可能な構造になっている機械であるから(丙四二の一ないし三)、ベースマシンの旋回のほかに、リーダーの回転によるオーガの並列の回動が可能であり、これによって、0度を含む所定の角度を介在させていたといえる。丙一四以外の工事においても、同種の削孔機を用いてSMW工法が実施されていたと経験則上推認すべきである。したがって、これらの工事においても、補助参加人は、ベースマシンの旋回のほかに、リーダーの回転によるオーガの並列の回動によって、0度を含む所定の角度を介在させて施工していたといえる。
(原告の反論)
補助参加人が本件出願前に実施していたSMW工法は、成幸特許を実施したものであって、本件発明とは異なるから、先使用は成立しない。また、仮に、本件出願前のSMW工法実施について、先使用が成立するとしても、補助参加人は、先使用に係る発明を実施した者であると評価できない(補助参加人の下請けが実施した)ので、被告が先使用の抗弁を主張することはできない。
(一) 丙三六には、「撹拌」の工程について、「オーガ上下とエアーにより撹拌する」と明記されており、「撹拌」がオーガの回転を当然に意味する用語ではないことが明確に示されている。「オーガの引き上げ」についても、「オーガを引き上げる」と記載されているのみで、オーガの回転を維持して壁体造成材料を撹拌混合しながら引き上げるという工程を含んでいないことは明らかである。引抜き撹拌という記載も、単にオーガを上方向に引き抜くことによって撹拌作用を生じさせることを示しただけである。仮に、丙三六で、オーガを引き上げる際に、オーガの回転を伴うとしても、その回転を逆転させることは必ずしも明確には示されていないし、壁体造成材料を撹拌混合するためではなく、オーガの引き上げの際に、打設した壁体造成材料が掘り出されてしまうことを防止するためであるとも考えられる。よって、丙三六で、本件発明と同一の発明が実施されていたということはできない。
(二) 丙一四の記載は、「引抜撹拌(逆転)」が、単にオーガを上方向に引き抜くことによって撹拌作用を生じさせることを示しただけであり、「撹拌」は「回転」を意味しない。仮に、逆転という語が回転を意味するとしても、その目的、時期、時間、態様が不明であり、直ちに、オーガの回転を維持して壁体造成材料を撹拌混合しながら引き上げる工程であることを示すものではない。また、丙一四には、並列したオーガが回動可能であったことは何ら示されていない。また、丙一八、三四にも、並列したオーガが回動可能であったことは何ら示されていない上、丙三四における「引抜撹拌(逆転)」について、丙三六と同様の指摘ができる。
(三) 補助参加人の主張する工法は、オーガが底部に到達した段階で、オーガの回転を逆転に切り替えて引き上げる方法であるとするが、底部で逆転に切り替えるのは多大な負荷がかかり、現実には実施不能であって、実際に行っていたとは考えられない。
4 損害賠償責任の有無及びその額
(原告の主張)
(一) 損害賠償責任の有無
被告が受注したのは、基礎工事も含めた本件工事のすべてであり、施主に対しては被告が基礎工事も含めて全面的に責任を負っていた。そのため、被告は自ら本件工事の対象となった土地の形状に適した工法を検討して被告工法を選択し、補助参加人に対して、被告工法を使用して造成することを命じ、補助参加人はそれに応じて本件工事の現場に必要な機器と従業員を派遣し、被告から派遣された現場監督が補助参加人から派遣された現場従業員に対して、直接的に全面的な指図監督を行い、被告工法により本件工事を施工した。これらによれば、被告が特許権侵害について責任を負うべきである。
仮に、補助参加人が独立した立場で被告工法を実施し、被告が被告工法を使用したとは評価できないとしても、被告は民法七一六条に基づき不法行為責任を負うことは明らかである。本件における被告と補助参加人の関係は、注文者と請負人の関係にあり、同条によれば、注文者である被告は原則として責任を負わないが、「注文又は指図に付き注文者に過失ありたるときは」注文者は請負人が仕事につき第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。そして、被告は、発注の当時本件特許権の存在を知りながら、あえて、補助参加人に対して被告工法での工事を発注し、実際の工事現場において具体的な指図を加えてきたのであるから、補助参加人が被告工法を使用すること、すなわち、本件特許権侵害について少なくとも過失があったといえる。
(二) 損害額
被告は、本件工事を金二〇〇〇万円で請け負った。原告は、被告に対し、本件工事において被告工法を使用しないように警告したにもかかわらず、被告はこれを無視して、本件工事を継続した。このような被告の行為は、故意による侵害に該当し、原告の被った損害額は、請負金額の一〇パーセントである二〇〇万円が相当である。
(被告の反論)
(一) 損害賠償責任の有無
原告の主張は争う。
被告は、本件工事(基礎工事部分)を補助参加人に発注したが、被告工法を使用するよう補助参加人に命じたこともない。右基礎工事は補助参加人において施工されたものである。被告が基礎工事に関し補助参加人に行った指示は、図面上での基礎工事場所の確認等一般的な事項にすぎず、具体的な基礎工事の施工は補助参加人自らが行っていた。被告が特許権侵害の責任を負うことはない。
(二) 損害額
原告の主張は争う。
第三 争点に対する判断
一 権利の濫用(明白な無効理由)
まず、本件特許には、明らかな無効理由があって、本件特許権に基づく権利行使が権利濫用として認められないか否かについて検討する。
本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書によれば、従来の連続壁体の造成工法では、立坑を一本ずつ隣接して削孔して壁体造成材料を打設していくため、造成のための施工時間が掛かり、連続壁体のシール性が低下するという問題点があったが、本件発明は、特許請求の範囲に記載する構成を採ることにより、このような問題点を解決しようとしたものとされている。そして、本件発明の作用効果は、①複数基からなるオーガの並列を回動させることのできる削孔機を用いて、壁体造成材料の造成角度を調整することができるため、直線以外の施工ラインにも容易に対応することができる(平成五年七月一五日手続補正書、甲三)、②立坑内における掘削土砂と硬化液との撹拌混合が複数基のオーガを備えた削孔機により行われるため、撹拌混合が十分に行われ良質の壁体造成材料が得られる(本件明細書6欄33行〜36行)、③削孔機を立坑から引き上げる際にも、撹拌混合が行われるため、この良質の壁体造成材料を得るという効果は一層大きなものとなるというものである。
丙七、三八の二(「基礎工四月号」一九八一年四月、「高知市神田ポンプ場造成工事に伴う大深度ソイルセメント連続壁工法」三六頁〜四三頁)には、本件発明の構成要件について、以下の二点を除くすべてが明確に記載されている。すなわち、右文献においては、①本件発明の構成要件Dの「壁体造成材料が硬化する前にこの立坑に一部重複しかつ削孔機の回転により0度を含む所定の角度を介在させてさらに次の立坑を削孔すると同時に壁体造成材料を打設する」のうち、「オーガの並列を回動可能にさせる」ことによって実施するという構成(この点の解釈は後述のとおり)、②発明の構成要件Cの「削孔機による硬化液の吐出と回転とを維持して壁体造成材料を撹拌混合しながら削孔機を立坑から引き上げ(る)」のうち、硬化剤の吐出と回転を「維持して」実施するという構成、の二点が必ずしも明示的には示されていない。
しかし、丙三八の九「柱列式地下連続壁工法(鹿島出版会・梶原和敏著)」(昭和五八年一月三一日発行)には、「ベースマシンの旋回(本件発明でいう削孔機の回転)と回転式リーダーの回転によるオーガの並列の回動を組み合わせることによって、0度を含む所定の角度(九〇度)を介在させ」て、敷地のコーナー部を施工する工法が記載され(図6.55)(なお、ここにいう「回転式リーダーの回転」が「オーガの並列の回動」を指すことは明らかである。)、オーガの並列を回動させることによって実現することが明白に示されている。また、同号証には、「――更にセメント溶液の吐出を継続しながら、決められた引揚速度をもって三軸錐を引上げる(通常1.5m/min)」と記載され、さらに「――引抜き時における撹拌吐出量は、約90L/minに調整して計画の全量を注入した。一エレメントの削孔サイクルおよび注入量の関係を図6.89に示す。」と記載され、右記述部分から「壁体造成材料を立坑内に打設後に、削孔機によるセメント溶液(硬化液)の吐出と回転とを維持して壁体造成材料を撹拌混合しながら、削孔機を立坑から引き上げる」技術的手段が用いられることも示されている(回転を維持することは技術的に自明である。)。
右各記載に照らすと、本件発明は、右各証拠に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということができるから、特許
法二九条二項の無効事由を有することが明らかである。
そうすると、本件特許は無効理由を有することになるので、右特許権に基づく本件請求は権利の濫用として許されない。
二 被告工法と本件発明の構成要件の対比
以上のとおり、原告の本件請求は、権利の濫用として許されないが、念のため、被告工法が本件発明の構成要件Dを充足しているか否かの点についても、検討する。
1 構成要件Dの解釈
構成要件Dは、「壁体造成材料が硬化する前にこの立坑に一部重複しかつ削孔機の回転により0度を含む所定の角度を介在させてさらに次の立坑を削孔すると同時に壁体造成材料を打設し、壁体造成材料が打設された立坑を連続させ」るものである。
構成要件Dのうち、「削孔機の回転により0度を含む所定の角度を介在させて」との部分に係る「0度を含む所定の角度を介在させ(る)」との目的を達成させる手段に関しては、「削孔機本体の回転によって、複数並列に配置されたオーガの列を回転させる」手段と解するのが相当であり、また、出願手続に照らすならば、その手段のみに限定されると解される。
その理由は以下のとおりである。
(一) 本件明細書の「発明の詳細な説明」欄には、「この重複削孔の際には、オーガ41、42、43の並列が回動可能であることを利用して、先の立坑6に対して次の立坑6を所定角度介在させるようにする。この角度は、第4図に示すように、施行ラインLが直線の場合には0度となり直角の場合には90度となる。なお、施行ラインLに沿った立坑6の施行移動に対しては、削孔機4の基部(本体ベースマシン等)44からのオーガ支持部(クレーン等)45の伸縮で対応することができる。」と記載されている(5欄20行〜29行)。また、特許請求の範囲の構成要件Aに係る部分は、「先端付近より硬化液を吐出しながら回転するオーガを回転域が一部重複するように複数機並列し、かつその並列を回動可能にした削孔機」と記載されている。
右各記載によれば、構成要件Aにおいて、回動する対象は「オーガの並列」(すなわち、複数並列に設置されたオーガの列)であり、右回動を可能とする主体は、削孔機本体であることは明らかである。
したがって、構成要件Dにおいて、回転する対象は削孔機本体であると解するのが相当である。原告は、構成要件Dの右部分を「削孔機に配置された各オーガの各回転によって削孔する」趣旨に理解すべきであるとするが、前記記載に照らし、採用の余地はない。
(二) 原告は、成幸工業らを請求人とする本件特許に係る無効審判請求事件における平成一二年二月一四日付け回答書(丙三八の二三)において、以下のように述べている。
すなわち、請求人(成幸工業ら)が挙げた証拠(本件丙三八の九)に開示された技術との相違点について、公知資料に現れた技術思想は、右文献において「ベースマシンの旋回と回転式リーダーの回転を組み合わせることによって敷地内の施工が可能である」と記述されていることに照らすと、両者の組み合わせが施工の条件であるのに対して、本件発明は、「複数機のオーガの並列の回動により0度を含む所定の角度を介在させる」ことだけで達成されるとの趣旨の意見を述べ、本件発明は、「ベースマシンの旋回と回転式リーダーの回転を組み合わせ」なければならない不便なものではないと、本件発明の特徴的部分を強調している。
本件発明に関する原告の意見部分を参酌すると、本件発明の構成要件Dは、「0度を含む所定の角度を介在させる」目的を達成させる手段について、「オーガの並列の回動のみによる手段」に限定すべきであり、「ベースマシンの旋回と回転式リーダーの回転を組み合わせることによる手段」は意識的に除外されていると解するのが相当である。換言すれば、原告が、「複数機のオーガの並列の回動により0度を含む所定の角度を介在させる」ことだけで達成されるとの趣旨の意見を述べているのにもかかわらず、本訴訟を提起した後に、右意見を翻して、「ベースマシンの旋回と回転式リーダーの回転を組み合わせることによる手段」が構成要件Dに含まれると主張することは、禁反言の法理により許されないというべきである。
2 被告工法(二)cと構成要件Dとの対比
被告工法(二)cは、一次掘削孔の長手方向に0度を含む所定の角度を介在させる際、ベースマシンの旋回と回転式リーダーの回転(オーガの並列の回動)を組み合わせ、さらに、これにべースマシンの移動を伴わせていることは当事者間に争いがない。すなわち、被告工法においては、削孔機を立坑から引き上げ、次の立坑を削孔する際に、回転式リーダーの回転だけでなく、ベースマシンの旋回及びベースマシンの移動を伴っているのであり、オーガの並列の回動のみで、次の立坑を削孔する手段を採用していない。
そうすると、被告工法(二)cは、構成要件Dを充足しない。
二 したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の本件請求は、理由がない。
(裁判長裁判官飯村敏明 裁判官石村智 裁判官八木貴美子は、差し支えのため、署名押印することができない。裁判長裁判官飯村敏明)
別紙
特許請求の範囲
1 先端付近より硬化液を吐出しながら回転するオーガを回転域が一部重複するように複数基並列し、かつその並列を回動可能にした削孔機を用い、削孔機による硬化液の吐出と回転とで連通した複数本からなる立坑を地盤に削孔すると同時に削孔土砂と硬化液とを撹拌混合してこれら混合物からなる壁体造成材料を立坑内に打設し、この壁体造成材料の打設後に削孔機による硬化液の吐出と回転とを維持して壁体造成材料を撹拌混合しながら削孔機を立坑から引き上げ、壁体造成材料が硬化する前にこの立坑に一部重複しかつ削孔機の回転により0度を含む所定の角度を介在させてさらに次の立坑を削孔すると同時に壁体造成材料を打設し、壁体造成材料が打設された立坑を連続させてその壁体造成材料を硬化させることを特徴とする連続壁体の造成工法。
発明の詳細な説明
[産業上の利用分野]
本発明は、連続壁体の造成工法に関する。
さらに詳しくは、土留、止水工事において、削孔と壁体造成材料の打設とを同時に行うことにより、設定された施工ラインに沿って地盤中に壁体を連続して造成する工法の改良に関する。
[従来の技術]
従来、連続壁体の造成工法としては、例えば、先端よりセメントミルク等の硬化液を吐出しながら回転する単基のオーガを備えた削孔機を用い、削孔機による硬化液の吐出と回転とで1本からなる立坑を地盤に削孔すると同時に削孔機と硬化液とを撹拌混合してこれら混合物からなる壁体造成材料を立坑内に打設し、この壁体造成材料が硬化した後または硬化する間際にこの立坑に隣接して次の立坑を削孔すると同時に壁体造成材料を打設していくものが知られている。
[発明が解決しようとする課題]
前述の従来の連続壁体の造成工法では、立坑を1本づつ隣接して削孔して壁体造成材料を打設していくことから、施工ライン上の連行が遅くまた削孔機の頻繁な上下操作等が要求されるため造成の施工時間が懸かると共に、立坑の隣接施工により各立坑間の一体性が乏しくなるため造成された連続壁体のシール性が低いという問題点を有している。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、造成の施工時間が短く造成される連続壁体のシール性が良好な連続壁体の造成工法を提供することにある。
[課題を解決するための手段]
前述の目的を達成するため、本発明に係る連続壁体の造成工法は、先端付近より硬化液を吐出しながら回転するオーガを回転域が一部重複するように複数基並列しかつその並列を回動可能にした削孔機を用い、削孔機による硬化液の吐出と回転とで連通した複数本からなる立坑を地盤に削孔すると同時に削孔土砂と硬化液を撹拌混合してこれら混合物からなる壁体造成材料を立坑内に打設し、この壁体造成材料の打設後に削孔機による硬化液の吐出と回転とを維持して壁体造成材料を撹拌混合しながら削孔機を立坑から引き上げ、壁体造成材料が硬化する前にこの立坑に一部重複しかつ削孔機の回転により0度を含む所定の角度を介在させてさらに次の立坑を削孔すると同時に壁体造成材料を打設し、壁体造成材料が打設された立坑を連続させてその壁体造成材料を硬化させることを特徴とする手段を採用する。
[作用]
前述の手段によると、連通した立坑が複数本づつ重複して削孔されて壁体造成材料が打設されていくことから、1本づつの削孔に比し施工ライン上の進行が速くまた削孔機の頻繁な上下操作等が要求されなくなると共に、立坑の連通施工により各立坑間の一体性が向上するため、造成の施工時間が短く、造成される連続壁体のシール性が良好な連続壁体の造成工法を提供するという目的が達成される。
[実施例]
以下、本発明に係る連続壁体の造成工法の実施例を図面に基づいて説明する。
この実施例の施工に際しては、通常、施工前処理等を行う先行工程が施工される。先行工程では、まず、施工地盤Eの土質、障害物探査等のための削孔位置に探索が行なわれる。この探索は、小型オーガ等による探索掘り、超音波反射装置、電磁波反射装置等を単独または組合せて行なわれ、特に街区では各種ケーブル、水道管、ガス管等の確認が精密になされる。次に、施工地盤E上に施工を正確にする施工ラインLを設定する定規引きが行われる。この定規引きは、H型鋼等からなる定規受1の上にH型鋼等からなるガイド定規2を固定し、ガイド定規2の上面に削孔位置の中心位置等の目印3を記すことにより行なわれる。
この先行工程の終了後、削孔機4を前記ガイド定規2の目印3に合わせて削孔を開始する。この削孔機4は夫々軸中心として回転する3基のオーガ41、42、43を備えており、この各オーガ41、42、43の先端または先端から若干上方寄等の単数または複数箇所からはセメントミルク、アスファルト乳剤、ペントナイト液等からなる硬化液5が吐出され、この各オーガ41、42、43のブレード41’、42’、43’の各回転域Rは夫々隣合うブレード41’、42’、43’の回転域Rと一部重複するように複数基並列し、このオーガ41、42、43の並列は回動するようになっている。なお、削孔に際しては、通常では各オーガ41、42、43を夫々回転させ硬化液5を吐出させるが、施工地盤Eの土質によっては両側のオーガ41、43のみから硬化液5を吐出したり硬化液5に研削用粒子を混入して吐出に圧力を加えたりすることも可能である。
このような削孔機4を操作して、硬化液5を吐出しながらオーガ41、42、43を回転させて施工地盤Eを削孔すると、回転するオーガ41、42、43のブレード41’、42’、43’によって施工地盤Eが研削され立坑が削孔され、同時に回転するオーガ41、42、43のブレード41’、42’、43’によって吐出された硬化液5と研削された削孔土砂とが撹拌混合されて、立坑6内に壁体造成材料7が打設されることになる。この施工地盤Eの研削ではオーガ41、42、43の回転域Rが一部重複していることから、施工地盤Eの土質が粘性土、草木根混入土等でも確実に切断切削して円滑に削孔することができる。また、吐出された硬化液5と研削された削孔土砂との撹拌混合は、3基のオーガ41、42、43のブレード41’、42’、43’によって行なわれるから、撹拌混合が十分に行なわれ良質の壁体造成材料7が得られることになる。さらに、削孔された立坑6では、施工地盤Eを研削するオーガ41、42、43のブレード41’、42’、43’の回転域Rが一部重複していることから、連通した複数本からなる構造となる。
なお、オーガ41、42、43による施工地盤Eの研削において、オーガ41、42、43の先端が削孔最深部6’に到達した際にオーガ41、42、43を一時的に若干引き上げると、立坑6内の各深度でのオーガ41、42、43のブレード41’、42’、43’の回転時間が均等化され、吐出された硬化液5と研削された削孔土砂との撹拌混合が均質となる。このオーガ41、42、43の先端の削孔最深部6’への到達については、オーガ41、42、43に深度マークを記すことよって簡単に知ることができる。
この削孔機4による立坑6の削孔と壁体造成材料7の打設が終了した後には、硬化液5の吐出とオーガ41、42、43の回転とを維持して、吐出された硬化液5と研削された削孔土砂との撹拌混合を継続しながら削孔機4(オーガ41、42、43)を立坑6から徐々に引き上げる。
そして、打設した壁体構造材料7が硬化する前に、片側または両側のオーガ43、41を、先に削孔した立坑6の片側または両側のオーガ43、41が研削した部分に重複させるようにして、前述と同様の作業を行い、次の立坑6を削孔して壁体構造材料7を打設する。この立坑6の削孔の重複の手段は、第2図に示すように順次立坑6を延長していく場合のほかに、第3図に示すように間欠的に削孔した立坑6の間を接続するように削孔する場合等が考えられる。この重複削孔は、各立坑6を一体化させて連続して行うことになる。
この重複削孔の際には、オーガ41、42、43の並列が回動可能であることを利用して、先の立坑6に対して次の立坑6を所定角度介在させるようにする。この角度は、第4図に示すように、施行ラインLが直線の場合には0度となり直角の場合には90度となる。なお、施行ラインLに沿った立坑6の施行移動に対しては、削孔機4の基部(本体ペースマシン等)44からのオーガ支持部(クレーン等)45の伸縮で対応することができる。
このような実施例によると、前述の作業を繰り返して施行ラインLに沿って壁体造成材料7が打設された立坑6を削孔し、その壁体造成材料7を硬化させることで、施行ラインLに沿った連続壁を造成することができる。この結果、通連した立坑6が複数本づつ重複して削孔され、同時進行で壁体造成材料7が打設されていくことから、従来のように一本づつの削孔に比し施行ラインL上の進行が速くまた削孔機4の頻繁な上下操作等が要求されなくなると共に、立坑6の連通施行により各立坑6間の一体性が向上するため、造成の施行時間が短く造成される連続壁体のシール性が良好となる。
なお、第5図は壁体造成材料7が打設された立坑6内にH型鋼からなる補強応力材9を挿入する場合を示したもので、ガイド定規2に案内溝81と位置決め82とを備えたプレード定規8を取り付けて施行している。このプレート定規8の位置決め82をガイド定規2の目印3に合わせ、案内溝81に補強応力材9を挿通して施行すると、補強応力材9の位置を正確に施行することができる。
また、第6図は一般的な施工地盤Eの具体的削孔例を示すもので、アンメータ等に注意してオーガ41、42、43に過度の負荷を掛けないように1.0m/min程度の削孔速度で削孔最深部6’が10.5mまで削孔された場合を示している。なお、オーガ41、42、43の一時的な引き上げは、3.0mとなっている。以上、図示した実施例のほかに、オーガ41、42、43の基数については、2基または4基以上とすることも可能である。
【発明の効果】
以上のように本発明に係る連続壁体の造成工法は、連通した削孔が複数本づつ重複して削孔されて壁体造成材料が打設されていくことから、一本づつの削孔に比し施工ライン上の進行が速くまた削孔機の頻繁な上下操作等が要求されなくなると共に、削孔の連通施工により各立坑間の一体性が向上するため造成の施工時間が短く造成され、連続壁体のシール性が良好である。また、この効果により、造成コストが安価になると共に止水関連等へと、造成対象が拡大される効果が生ずる。
さらに、立坑の削孔が複数基のオーガを備えた削孔機で行われるため、地盤が粘性土、草木根混入土等の場合でも削孔が円滑に行われる効果がある。
さらに、立坑内における削孔土砂と硬化液との撹拌混合が複数基のオーガを備えた削孔機で行われるため、撹拌混合が十分に行われ良質の壁体造成材料7が得られる効果がある。
図面の簡単な説明
第1図は、本発明に係る連続壁体の造成工法の実施例を示す施行断面図、第2図、第3図は、それぞれ異なる施行順序による施行平面図、第4図は、施行ラインへの対応を示す平面図、第5図は、他用途の利用例を示す平面図、第6図は、本発明に係る連続壁体の造成工法の具体的削孔例を示すグラフである。
4……削孔機、5……硬化液、6……立坑、7……壁体造成材料、41、42、43……オーガ。
別紙工法目録<省略>
別紙一覧表<省略>